肝機能障害(肝炎・脂肪肝・肝硬変など)
肝臓の働き
肝臓は生きていくためには必要不可欠な臓器であり、主に3つの働きをしています。
①代謝
3大栄養素である炭水化物(糖質)・脂肪(脂質)・タンパク質を蓄えたり、必要に応じて体内にエネルギー源として補給します。
②解毒
体内に入った有害な物質(アルコール、薬剤など)を分解し、尿や汗、便などと⼀緒に体の外に排出する働きがあります。
③胆汁の分泌
食べ物の消化に必要な胆汁と呼ばれる消化液を作り出します。
肝機能障害とは
肝機能障害とは何らかの原因で肝臓の機能が低下した状態を言います。
血液検査でAST・ALT・γ-GTP、ALPなどが上昇した場合、肝機能障害と判断します。 肝炎などの障害が起きると、肝臓の細胞が破壊され、肝臓の機能が低下することにより、肝機能障害を引き起こします。
しかし肝臓は、再生機能と予備能力が優れているため、重症化するまでは自覚症状が現れないことが多いため、「沈黙の臓器」と呼ばれています。 そのため血液検査で肝機能障害を指摘されたら早めに精査をすることが大切です。
主な肝臓病
肝機能障害を引き起こす疾患はいくつもあります。このうち、代表的な肝臓病を挙げていきます。
ウイルス性肝炎
ウイルス性肝炎は、国内最大級の感染症で、肝炎ウイルスに感染している人は300〜370万人にのぼると推計されております。
ウイルス性肝炎を引き起こすウイルスにはいくつかの種類がありますが、そのうちB型やC型肝炎ウイルスは肝硬変や肝臓がんの原因の多くを占めます。
B型肝炎
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。
成人で感染した場合は症状は一過性であり、自然に治癒することが多いですが、乳幼児期に感染すると持続感染(キャリア)になります。
肝炎を発症しない無症候性キャリアの方が9割を占めますが、1割の方では肝炎を発症し、肝硬変や肝臓がんへ進展します。
C型肝炎
C型肝炎もB型肝炎同様に血液や体液を介して感染します。
C型肝炎は慢性化しやすく、ウイルスに感染した人の7割が慢性肝炎を発症し、適切な治療を行わないと肝硬変や肝臓がんへ進展します。
A型肝炎・E型肝炎
A型やE型肝炎ウイルスは主に経口感染によって起こります。
A型肝炎は牡蠣の生食、E型肝炎は生や加熱不十分な豚やイノシシ肉、鹿肉の摂取により感染すると言われています。
症状は急性で、発熱や腹痛、嘔吐、疲労感、黄疸、褐色尿ですが、B型やC型肝炎と違い、基本的には対症療法で自然に治癒します。
アルコール性肝障害
長期にわたる過剰な飲酒が原因で肝障害を引き起こす疾患です。
過剰の飲酒とは、1日純エタノール60g以上(目安として、ビールでは中瓶を3本程度、日本酒では3合程度、ワインでは5杯程度)を摂取することを言います。
女性やお酒の弱い人は1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害を引き起こす可能性があります。
進行すると、肝硬変や肝臓がんへ進展します。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はアルコールやウイルスなどを原因としない脂肪肝の総称です。
NAFLDは肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病と密接に絡み合っており、近年増加傾向です。 NAFLDには、肝細胞に脂肪が沈着するだけの非アルコール性脂肪肝(NAFL)と肝細胞が破壊されて機能しなくなる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類され、特にNASHは肝硬変や肝臓がんへ進展する確率が高いと言われております。
肝硬変
ウイルス性肝炎や飲酒などにより、肝臓の細胞が破壊と再生を繰り返すうちに肝臓の機能が低下すると肝硬変になります。
肝硬変になると肝不全や肝臓がんを発症しやすくなります。
一度肝硬変になってしまうと元の健康な状態の肝臓に戻ることが難しいため、早期に発見し原因を取り除く治療を行う必要があります。
自己免疫性肝炎
本来はウイルスや細菌などの異物を攻撃して体を守るために働く免疫機能に異常が起こり、誤って自分の肝臓を攻撃してしまう疾患です。
中高年の女性に多く、確定診断には肝生検という肝臓の組織を調べる検査が必要になる場合があります。
こちらの疾患も放置しておくと肝硬変や肝臓がんへ進展する場合があります。
肝機能障害の検査
血液検査でAST・ALT・γ-GTP、ALPなどの上昇がないか確認します。
上昇していた場合、原因検索のために、肝炎ウイルスの抗体、自己免疫性疾患の抗体、肝臓がんのマーカーなどを調べます。 また腹部超音波で、肝臓の大きさや形、脂肪の有無、腫瘍がないかなどを詳しく調べていきます。
肝機能障害の治療
肝機能障害の治療はそれぞれの疾患に順次で行います。
ウイルス性肝炎
各ウイルスによって治療方法が異なります。
B型肝炎は、現在の医学ではウイルスを完全に排除することが難しいと言われています。
そのため抗ウイルス薬を使用して、肝硬変や肝臓がんに進展しないようにすることが目標となります。
C型肝炎は、ウイルスを99%駆除する効果がある抗ウイルス薬を使用します。
A型・E型肝炎は、基本的には自然に治癒するため、症状に応じた治療が行われます。
アルコール性肝障害
禁酒が最も重要です。アルコールを抑えて肝臓を休め、肝臓にとってバランスの良い食事を食べることが望ましいです。
場合によっては減酒薬などを用いたり、アルコール依存症のために飲酒がやめられない方は、精神科や専門機関へご紹介する場合があります。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
基本的には食事や運動療法が有効です。
改善が乏しい場合は薬物療法を行うことがあります。
自己免疫性肝炎
ステロイドや免疫を抑える薬を使用します。症状が再燃しやすいため、長期間に及ぶ薬物療法の継続が有効です。